やさしく解説:ジアリールエテン × 光イオン化 — 3本の論文から【WordPress用Markdown】
作成日:2025-10-17 / 対象:一般向け解説
まずは1分で
- **ジアリールエテン(DAE)**は、光で“開く/閉じる”形が切り替わる分子スイッチ。
- 光イオン化とは、光を当てて分子から電子が抜ける(= 電荷を帯びる)現象のこと。スイッチの形や周りの環境、当てる光の組み合わせで**起こりやすさ(量子収率)**が大きく変わります。
- ここでは、シクロデキストリン(CD)で包む×色の違うレーザーを組み合わせる、という**“分子の居場所”と“光の段取り”**の工夫で、光イオン化を賢くコントロールした研究を、やさしく解説します。
1) CDで包んで、三色レーザーで“ねらい撃ち”すると効率アップ(J. Photochem. Photobiol. A, 2015)
どんな研究?
- 代表的DAE(2,3-bis(2,4,5-trimethyl-3-thienyl)maleic anhydride)を**α/β/γ-シクロデキストリン(CD)**に包接。
- 1本レーザー(266 nm), 2本(266+532 nm), 3本(266+532+355 nm)でフラッシュフォトリシス。**水和電子の過渡吸収(720 nm)**を観測し、イオン化量子収率を比較。
- 結果:2本レーザー > 1本(S₀→S₁→Sₙの段階的2光子励起が効く)。3本だと532 nmで閉環体をいったん開く→イオン化効率さらに上昇。効果は特にγ-CDで顕著。
やさしい解説
“背伸び台(CD)”に乗せて位置を整え、色違いの光を順番に当てると、狙った高さ(励起状態)に無駄なく連れていける。だから電子が抜けやすくなる、という発想です。
参考(DOI)
Takeshita & Hara, J. Photochem. Photobiol. A: Chem. 310 (2015) 180–188. DOI: 10.1016/j.jphotochem.2015.05.026
2) 多色パルスの“段取り”でイオン化量子収率を底上げ(J. Photochem. Photobiol. A, 2017)
どんな研究?
- ベンゾ[b]チオフェン系DAE(1,2-bis(2-methylbenzo[b]thiophen-3-yl)-hexafluorocyclopentene)をCDに包接し、1本(266 nm)/2本(266+532 nm)/3本(266+532+355 nm)のマルチパルスで比較。
- CDに入れるだけでも、環化反応が抑えられてイオン化が上がる。さらに2本→段階励起で一段と上がる。3本→532 nmで環戻しが効いて一層アップ。
- 鍵は、閉環体の熱安定性と環化量子収率の“さじ加減”。どのCDを選ぶかと光の順番で最適値が変わる。
やさしい解説
“渋滞(環化)”を避けて、エレベーターを乗り継ぎ(段階励起)、行き先階(高次励起)まで最短ルートで到達するイメージです。
参考(DOI)
Takeshita; Kurata; Hara, J. Photochem. Photobiol. A: Chem. 344 (2017) 28–35. DOI: 10.1016/j.jphotochem.2017.04.026
3) 二色二レーザーで“光定常状態”ごと操る:最新の整理(Optical Materials, 2024)
どんな研究?
- 代表的DAE(1,2-bis(2,4-dimethyl-5-phenyl-3-thienyl)-hexafluorocyclopentene)のα/β/γ-CD包接体を対象に、1本(355 nm)と2本(355+532 nm)でフラッシュフォトリシス。
- 2本の方がイオン化効率が高い→S₀→S₁→Sₙの二段階励起が関与。さらに532 nmは直接2光子過程に入らないが、閉環↔開環の光定常状態を前倒しし、結果的にイオン化を促進(γ-CDで顕著)。
- 示唆:**“どの色をどの順で当てるか”**で、化学の仕上がり(光定常組成)まで含めて最適化できる。
やさしい解説
合図(532 nm)で隊列(開/閉の比率)を素早く組み替えてから、本丸(355 nm)で一気に押す。段取り八分の“光操作”です。
参考(DOI)
Hara, Optical Materials 154 (2024) 115698. DOI: 10.1016/j.optmat.2024.115698
使いどころのコツ(一般向けまとめ)
- 分子の“居場所”を整える:CDで包むと姿勢・溶解・反応経路が整い、**無駄な脇道(環化)**を抑えられる。
- “光の段取り”を設計する:色×本数×順番で段階励起&光定常を制御→イオン化量子収率↑。
- 安全側の波長へ:可視光(532 nm)を補助光として活用すれば、強い深紫外の負担を軽減できる。
よくある質問(FAQ)
Q. なぜ2本・3本のレーザーが効くの?
A. 1本で一気に高い階(高次励起)へ行くより、低い階(S₁)→高い階(Sₙ)へ段階的に乗り換える方が効率よく的確に狙えるからです。
Q. CDは何をしている?
A. 分子の“座り方”や“向き”を整える椅子。α/β/γで座面の大きさが異なり、反応の行き先が変わります。
Q. 応用は?
A. 光で電荷を作る/消す操作は、発光デバイスやメモリ、医療フォトニクスでオンデマンド制御に直結します。
出典(本文は下記3本をベースに一般向けに再構成)
- Takeshita, T.; Hara, M., “Resonance photoionization of a diarylethene… with cyclodextrins using multi-color multi-laser irradiation,” J. Photochem. Photobiol. A: Chem. 310 (2015) 180–188. DOI: 10.1016/j.jphotochem.2015.05.026
- Takeshita, T.; Kurata, H.; Hara, M., “Improvement of photoionization efficiency… by multi-laser pulse excitation,” J. Photochem. Photobiol. A: Chem. 344 (2017) 28–35. DOI: 10.1016/j.jphotochem.2017.04.026
- Hara, M., “Diarylethene photoionization control via two-color two-laser manipulation in cyclodextrins,” Optical Materials 154 (2024) 115698. DOI: 10.1016/j.optmat.2024.115698


