やさしく解説:ジアリールエテン(Diarylethene, DE)—3本の論文から
作成日:2025-10-16 / 対象:一般向け解説
まずは1分で
- ジアリールエテン(DE)は、光で色や形が変わる“分子スイッチ”の代表格。紫外光/可視光で開⇄閉の2つの形に可逆変換し、色・電気・磁気などの性質が切り替わります。
- メリット:熱に強い(熱安定)、繰り返し寿命が長い、固体や薄膜でもスイッチしやすい。
- 応用:記録材料(書いて消せる)、センサー、光で動く材料、分子ロボット、光メモリや論理回路など。
1) 可視光で動く“フォトスイッチ”の全体像(Angew. Chem. Int. Ed., 2015)
どんな研究?
- 可視光~近赤外で切り替え可能な分子スイッチの設計戦略を総覧したレビュー。DE/アゾベンゼン/スピロピランなどの光異性化を比較し、有害な深紫外を避ける工夫を解説。
- 波長チューニング(置換・拡張π共役・エネルギー移動の活用)で、生体・厚膜でも使えるやさしい光に反応させる道筋を示した。
やさしい解説
“眩しすぎる光(UV)じゃなく、やわらかい色の光でも動くスイッチにしよう”という設計のコツ集。DEは可視光応答化もしやすい有力候補です。
参考
Bléger & Hecht, “Visible-Light-Activated Molecular Switches,” Angew. Chem. Int. Ed. 54 (2015) 11338–11349. DOI: 10.1002/anie.201500628
2) “光で性質が変わる材料”の作り方(Adv. Mater., 2020)
どんな研究?
- 分子スイッチを材料に組み込むとマクロな物性を遠隔でオン/オフできる──その設計原理と成功例(薄膜、界面、自己組織化、液晶、結晶)を総まとめ。
- DEをポリマー/液晶/結晶に埋め込んで、色・導電率・屈折率・形状を光でプログラムできることを紹介。
やさしい解説
1個の分子の“カチッ”を、材料全体の“ガチャン”に増幅する方法論。DEは“形と色の変化が大きく、熱で勝手に戻りにくい”ので、狙った動きを何度も安定して出せます。
参考
Goulet‑Hanssens; Eisenreich; Hecht, “Enlightening Materials with Photoswitches,” Adv. Mater. 32 (2020) 1905966. DOI: 10.1002/adma.201905966
3) MOFに閉じ込めて“秩序”でチューニング(Chem. Rev., 2020)
どんな研究?
- 金属有機構造体(MOF)の規則的な構造の中にDEなどの光スイッチ分子を骨格やゲストとして組み込むと、光に対する動き方(速さ・効率)が幾何学的制約で設計可能になることを詳しくレビュー。
- 多孔質の秩序を活かし、ガス吸着制御、発光、導電、消去可能な印字など、実用寄りの機能につながることを示した。
やさしい解説
規則正しい“分子マンション(MOF)”にDEを入居させると、スイッチが揃って働くので材料として扱いやすい。ばらばらに動く欠点を秩序で克服します。
参考
Rice et al., “Photophysics Modulation in Photoswitchable MOFs,” Chem. Rev. 120 (2020) 8790–8813. DOI: 10.1021/acs.chemrev.9b00350
使いどころのコツ(一般向けまとめ)
- 可視光で動く設計:吸収帯の赤シフト(置換/連結/エネルギー移動)で安全な光でもオン/オフ。
- “単分子→材料”の橋渡し:ポリマー/液晶/界面/結晶の階層設計で小さな変化を大きく見せる。
- 秩序を味方に:MOFや結晶で向きや距離を揃え、速く・確実に・何度でも切り替える。
よくある質問(FAQ)
Q. 何回くらい切り替えられる?
A. DEは百万回級の耐久例も報告されるなど、繰り返しに強いスイッチとして知られています。
Q. 日光でも動く?
A. 波長設計次第。可視応答化されたDEなら屋外光や室内LEDでも十分に駆動できます。
Q. どこで役立つ?
A. “書いて消せる”表示膜、においやガスのセンサー、光で形が変わるアクチュエータ、分子演算など、**省エネな“光リモコン材料”**として期待されています。
出典(本文は下記3本をベースに一般向けに再構成)
- Bléger, D.; Hecht, S., “Visible‑Light‑Activated Molecular Switches,” Angew. Chem. Int. Ed. 54 (2015) 11338–11349. DOI: 10.1002/anie.201500628
- Goulet‑Hanssens, A.; Eisenreich, F.; Hecht, S., “Enlightening Materials with Photoswitches,” Adv. Mater. 32 (2020) 1905966. DOI: 10.1002/adma.201905966
- Rice, A. M. et al., “Photophysics Modulation in Photoswitchable Metal‑Organic Frameworks,” Chem. Rev. 120 (2020) 8790–8813. DOI: 10.1021/acs.chemrev.9b00350



