DSSCのTiO₂膜とは?厚み・焼成・散乱層が性能に効く理由

この記事で分かること
– DSSCでTiO₂膜が担う役割(なぜ“多孔質”が重要?)
– 膜厚・焼成(シンタリング)・散乱層が性能に与える影響の考え方
– うまくいかないときの“症状→原因”の当たりの付け方

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導入

DSSC(色素増感太陽電池)では、光を吸収する主役は色素ですが、色素を支える舞台が TiO₂多孔質膜 です。TiO₂膜は、色素を大量に載せる表面積を提供し、注入された電子を透明電極へ運ぶ“電子の道”にもなります。
一方で、膜厚が厚すぎる/薄すぎる、焼成が不十分、散乱層の設計が合わないなどで、Jsc/Voc/FFが大きく変わります。この記事では、TiO₂膜の設計ポイントを初心者向けに整理します。


まず結論(要点)

  • TiO₂膜は ①色素の足場(表面積) ②電子輸送路 ③光学設計(散乱) を同時に担う
  • 厚みは主にJsc(光捕集)に効きやすいが、厚すぎると再結合や抵抗でVoc/FFが悪化することがある
  • 焼成(シンタリング)が不十分だと、電子輸送が悪くなりFFが落ちたり、再結合が増えたりしやすい
  • 散乱層は長波長側の光捕集に効き、IPCEの形に変化が出やすい

1. TiO₂膜の役割(なぜ多孔質?)

DSSCでは、色素分子がTiO₂表面に吸着し、光で励起されるとTiO₂へ電子注入します。
TiO₂膜が多孔質なのは、表面積を増やして色素を大量に載せるためです。

  • 表面積が大きい → 色素吸着量が増えやすい → 光吸収が増える → Jscが上がりやすい
  • ただし、表面積を増やすほど電子が通る距離も伸び、再結合や抵抗の問題も出やすくなる

2. 膜厚(厚み)の考え方:薄い/厚いで何が起きる?

2-1. 薄すぎると…

  • 色素吸着量が足りず、光を拾えない → Jscが伸びにくい
  • IPCEが全体的に低い(吸収不足が原因のことが多い)

2-2. 厚すぎると…

  • 電子が集電されるまでの距離が長くなり、再結合が増えやすい
  • 直列抵抗・拡散の影響が大きくなり、IVが丸くなって FFが落ちることがある
  • 場合によってはVocも下がる

まとめ:厚みは「光を拾うための表面積」と「損失(再結合・抵抗)」のバランスです。


3. 焼成(シンタリング)の重要性:電子の“つながり”を作る

TiO₂ペーストを塗布した後の焼成は、粒子同士の接触(ネック形成)や溶媒・有機成分除去などに関係し、電子輸送や膜の安定性に影響します。

焼成が不十分だと起きやすい症状

  • 電子輸送が悪くなり、FFが下がる
  • EISで抵抗成分が大きく見えることがある
  • 再結合が増えてVocが落ちるように見えることもある

4. 散乱層(ライトスキャッタリング層):長波長側の光を拾う

TiO₂膜に散乱層(大粒径TiO₂など)を追加すると、光の散乱で光路長が伸び、吸収が増える場合があります。

どこに効く?

  • 特に 長波長側のIPCE が持ち上がる形で現れやすい
  • Jscが増えることが期待される一方、層構造や界面で抵抗が増えるとFFに影響する場合もある

5. “症状→原因”の当たりを付ける(最短診断)

5-1. Jscが低い

  • 膜が薄い(吸着量不足)
  • 色素吸着が弱い/凝集
  • 散乱層が無い/設計が合っていない

5-2. FFが低い(IVが丸い)

  • 焼成不足(電子輸送・接触抵抗)
  • 膜が厚すぎて抵抗が増加
  • 対極・電解液側の問題もあり得る(切り分けが必要)

5-3. Vocが低い

  • 再結合増加(表面状態・界面)
  • 厚膜化で再結合が増えている可能性
  • 電解液や添加剤の影響もあり得る

👉 測定で切り分け:
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6. 最短で評価する測定セット

1) IVJsc/Voc/FF/η
2) 吸収(電極):色素吸着量の目安
3) IPCE:散乱層や吸収増が“発電”に効いているか
4) EIS:抵抗・再結合の相対比較(焼成/厚みの影響の当たり)


FAQ

Q. 厚みはどれくらいが良いですか?
A. 最適は色素・電解液・散乱層の有無・焼成条件で変わります。まずは“基準厚み”を1つ決め、薄い/厚いを振ってIV・IPCEで最適点を探すのが安全です。

Q. 焼成温度を上げれば必ず良くなりますか?
A. 一概には言えません。焼成が不十分だと輸送が悪化しますが、上げすぎると膜収縮や基板(FTO)の影響、クラックなど別の問題も起こり得ます。目的は「良い接続」と「安定な膜質」を作ることです。


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