Transient Absorbance TD-DFT 2023 Papers list.
TD-DFT(時間依存密度汎関数理論)について
TD-DFTは、時間的に変化する外部場や励起状態の解析に用いられる強力な計算手法です。特に分子の励起状態の電子構造や動的挙動を理解するために広く使用されています。以下に、TD-DFTがどのように適用され、どのような新発見が得られたかを示します。
1. Cu(II)錯体の励起状態ダイナミクス
- 物質: Cu(II)錯体(例: メソ-テトラキス(フェニル)ポルフィリン)
- 方法: TD-DFTとフェムト秒時間分解吸収測定を組み合わせて、励起状態から三重項状態や配位拡張へ至るプロセスを解明。
- 新発見: 配位子-金属間電荷移動状態が重要な役割を果たし、約140 fsで三重項ハイパーサーフェスへの項間交差、約700 fsで五配位準安定中間体への配位拡張が進行。
2. FAPbBr₃/IEICO-4F界面の電子移動
- 物質: FAPbBr₃(有機無機ハイブリッドペロブスカイト)
- 方法: フェムト秒中赤外分光(fs-IR)、過渡吸収分光(TA)、TD-DFTを組み合わせ、ホットキャリア注入と電子移動過程を詳細に解析。
- 新発見: ホットキャリアは150 fs以内にFAPbBr₃からIEICO-4Fへ注入され、電子移動は中赤外分光法で証明された。
3. イミダゾール-2-カルボキサルデヒドの光反応性
- 物質: イミダゾール-2-カルボキサルデヒド(IC)
- 方法: TD-DFTを用いて、ICとその励起三重項状態(³IC)の水和構造や反応メカニズムを解析。
- 新発見: ³ICの電子配置が他の揮発性有機化合物(VOCs)との反応機構に重要で、周囲環境(酸性条件や水)の影響が大きいことが確認された。
4. 炭素触媒による脱硫反応
- 物質: 炭素ベースの触媒
- 方法: TD-DFTシミュレーションを用いて、脱硫反応の活性部位を解明。
- 新発見: 酮型カルボニル基(C═O)が脱硫反応の活性部位であり、SO₂を化学吸着することを示唆。
TD-DFTの役割と応用
TD-DFTは、励起状態の電子挙動や化学反応における遷移状態を解明するための強力なツールです。実験と計算の結果を結びつけ、分子の動的挙動を分子レベルで理解するための鍵となります。特に、光物理、触媒、材料科学における応用が進んでおり、新たな触媒設計や光電デバイスの効率向上に寄与しています。